世界中で愛される『アンパンマン』の根底には、やなせ先生が若い頃に体験した過酷な戦争の記憶が色濃く刻まれています。
日中戦争に従軍した際、先生が痛感したのは「飢えの耐え難さ」でした。大義名分やイデオロギーがいかに立派であっても、飢えた人間にとっては一片の食べ物こそが絶対的な救いであるという現実を骨の髄まで思い知らされたのです。さらに、海軍に従軍していた最愛の弟・千尋(ちひろ)さんが戦死したことも、先生の心に深い影を落としました。
この痛烈な原体験から、不朽の名言と哲学が誕生しました。
「正義のための戦いなんてものはない。正義はある日突然逆転する。しかし、困っている人や飢えている人に食べ物を差し出す行為だけは、絶対に逆転しない正義だ」
自らの顔をちぎって飢えた者に与え、自分は弱くなってしまうアンパンマン。それは、戦う格好良さではなく、自己を犠牲にしてでも他者を助ける「本当の勇気」を具現化した存在でした。