原作本編ではカナエが物語開始時点で既に故人(上弦の弐・童磨によって殺害)となっていたため、二人の具体的な交流シーンは限られていました。そのミッシングリンクを克明に補完したのが、ジャンプ j BOOKSより刊行された公式スピンオフ小説『鬼滅の刃 風の道しるべ』(矢島綾・著/吾峠呼世晴・原作)です。
同作の表題作「風の道しるべ」では、実弥が鬼殺隊の柱に昇格した直後の「初めての柱合会議」が描かれています。親友・粂野匡近(くめの まさちか)の死を乗り越えて柱となった実弥は、当時の産屋敷耀哉(お館様)に対して激しい不信感と怒りをぶつけます。周囲の柱たちが色めき立つ中、実弥の悲壮な覚悟と痛みを瞬時に察知し、穏やかに受け止めようとしたのが胡蝶カナエでした。
また、小説『鬼滅の刃 片羽の蝶』においても、胡蝶姉妹の過去エピソードを通じて、カナエがいかに周囲の人間に対して分け隔てのない温情を注いでいたかが描写されています。狂暴な仮面をかぶり、誰とも心を通わせようとしなかった実弥にとって、カナエの屈託のない笑顔と「不死川さん」と呼ぶ声は、唯一の安らぎであったことが行間から鮮やかに浮かび上がります。