文献や肉筆絵巻を深く読み解くと、伝承の裏に隠された意外な構造が見えてくる。山本五郎左衛門は単なる邪悪な悪魔ではない。実は神魔の領域に位置する超然とした存在であり、魔界の東日本を統括する頭領という裏設定が存在するのだ。ちなみに、西日本を治めるライバルの魔王として「神野悪五郎(しんのあくごろう)」の名が挙げられており、両者は魔界の勢力争いを繰り広げていたという背景がある。
さらに興味深いのは、彼が武太夫に試練を与えた理由である。それは人間を無差別に苦しめるためではなく、真の勇気を持つ「魔王の代理人」を見定めるための試験であったとされる。理不尽な恐怖の果てに見せた礼節と敬意。恐怖を与える存在でありながら、人間の気概を認め、契約を結ぶという人間味と格式の高さこそ、知られざる真実の最たるものだ。