『時をかける少女』の歌詞は、筒井康隆の原作SF小説の世界観を巧みに踏襲しながらも、ユーミン特有の鋭利な心理描写が散りばめられています。とりわけ印象的なのが、サビに登場する「愛の手紙 空間に落ちて」「時間(とき)をかける少女」というフレーズです。
ここで描かれる手紙とは、相手に届くことのなかった想いのメタファーであり、空間に落ちるという表現は「不可逆的な時間の残酷さ」を象徴しています。思春期特有の「大人になりたい衝動」と「無垢な過去に留まりたい恐れ」。二律背反する葛藤が、タイムトラベルというSF的装置を通じて見事に文学的昇華を遂げています。
「過去も未来も星座も越える」という壮大なスケール感と、少女の胸の内にある「あなたが好き」という極めてミニマムな独白の対比。このミクロとマクロの視点移動こそが、松任谷由実が描く歌詞世界の真骨頂であり、リスナー自身の記憶の引き出しを強制的に開けさせる強力なトリガーとなっているのです。