もっとも、学界の議論が完全に一決したわけではない。銭貨に刻まれた七星文様が道教の陰陽五行説や魔除けの思想と深く結びついている点から、なおも呪術的側面を強調する学者も存在する。道教思想に造詣が深かった天武天皇だけに、新貨幣に魔除けの意図を込めたことは疑いようがない。
だが、実用性と呪術性は決して二律背反ではない。古代において、国家の権威と神聖さは表裏一体だった。民衆に真新しい銭貨を信用させるため、あえて強力な呪力を象徴する文様を刻んだと解釈する方が自然だろう。貨幣としての機能と宗教的な威光。その双方を合わせ持った万能の媒体として企図された点に、古代人の知恵と政治的戦略の高さがうかがえる。