標高約1,500メートルに広がる上高地は、日常の熱気を瞬時に忘れさせてくれる別世界だ。マイカー規制によって守られ続けてきた澄んだ空気と、梓川のエメラルドグリーンの清流。河童橋から見上げる穂高連峰の険しい山肌には、7月でも白い残雪が筋を描く。
ここでの醍醐味は、自然環境への負荷を最小限に抑えながらその恩恵を享受するエコツーリズムの真髄に触れることにある。朝靄が立ち込める大正池から明神池へと続く木道を歩けば、鳥のさえずりと風の音だけが耳に届く。肌を撫でる空気は驚くほど冷涼で、深呼吸するたびに身体の隅々まで洗われていく感覚を覚える。
日帰り客がバスで引き揚げる夕暮れ以降、上高地は全く別の表情を見せる。静寂に包まれた森と、頭上に広がる圧倒的な星空。帝国ホテルや歴史ある温泉宿に身を落ち着け、薪の爆ぜる音に耳を傾ける夜は、何物にも代えがたい。