長年の別居状態が続くなかで、夫婦関係の最終的な引き金となったのは、彼が50代半ばから傾倒したヨガへの没入だった。単なる健康法にとどまらず、インド政府公認のプロフェッショナルなヨガインストラクターの資格を取得するほどの求道的な領域へと足を踏み入れたのである。
その生活様式はまさに常軌を逸していた。深夜1時に起床し、約4時間を瞑想とアーサナ(ポーズ)、呼吸法に費やす。そして、野菜を中心とした自炊の朝食に2時間以上をかけ、ゆっくりと咀嚼して体内に取り込む。1日1食のストイックなルーティンを守る生活は、一般的な家庭のリズムとは完全に乖離していた。
「自分自身の心と体をとことん見つめ、残りの人生をひとりの求道者として生きたい」という夫の想いと、「それぞれの人生を自由に歩むべきだ」という妻の現実的な眼差し。38年という歳月をかけて子どもたちを立派に育て上げ、親としての責務を果たし終えた二人が導き出した答えは、憎しみ合う破局ではなく、互いを縛る契約を解く「卒婚」としての離婚届の提出であった。慰謝料などの金銭的争いも一切なく、極めて穏やかに受理された背景には、長年連れ添った者にしか分かり得ない深い信頼があった。