急な坂の中腹、看板すら控えめな雑居ビルの3階に、常連客が「誰にも教えたくない」と口を揃えるロースタリーカフェがある。独占取材に応じてくれた店主が営むその空間は、まさに大人の隠れ家と呼ぶにふさわしい静寂に満ちていた。
カウンター越しに差し出されたのは、エチオピア産の浅煎り豆を使用したスペシャルティコーヒー。ワイングラスのような器から、ジャスミンを思わせる華やかなアロマと、完熟した柑橘のジューシーな酸味が立ち上る。「街の景色がどれほど変わろうと、私たちが淹れる一杯の温度感は変わりません」と店主は穏やかに語る。効率を求めるファストな潮流に抗い、一滴一滴にクラフトマンシップを注ぎ込む。この一杯を味わうためだけに坂を登る価値が、間違いなく存在する。