土俵を去ってから歳月が流れた現在、男の表情にはかつて背負っていた過酷な重圧から解き放たれた穏やかさが漂う。現在の心境について、本人は静かに、しかし力強い口調で言葉を紡いだ。
「土俵を去る瞬間は、本当に迷いがなかったと言えば嘘になります。でも、あの時の自分の体は限界を超えていた。相撲への未練というより、応援してくれたファンの皆さんへ直接感謝を伝えきれなかったことだけが心残りでした。ただ、後悔はしていません」
重厚なスポーツノンフィクションや大相撲ドキュメンタリーが描き出してきたドラマの主役は今、自らの足で新たな人生のレールを敷き始めている。治療とリハビリを重ねたことで腰の状態も大きく改善し、体重も現役時代から適度に絞られ、精悍な顔つきへと変化を遂げている。