頭の大きさを巡っては、古くから信じがたい俗説や誤解がまことしやかに囁かれてきました。その代表例が「赤ちゃんの頭が大きいと将来頭が良くなる(知能指数が高い)」あるいは逆に「頭が小さすぎると発達障害になる」という極端な言説です。
神経科学および発達行動小児科学の膨大な追跡研究において、正常範囲内(3〜97パーセンタイル内)における頭囲の大小と、将来的なIQや認知能力との間に有意な相関関係は認められていません。脳の機能的成熟を決定づけるのは、頭蓋骨の容積ではなく、大脳皮質の神経回路(シナプス)の密度と適切な接続、そして生後の豊かな愛着形成や刺激的な環境です。標準範囲内での1〜2cmの違いを知能の優劣に直結させる考え方は、完全な疑似科学にすぎません。
もう一つの重大な盲点が、計測そのものに潜む「物理的誤差」です。生後間もない時期や1ヶ月健診頭囲測定の場面を思い出してください。赤ちゃんは計測台の上で激しく泣き叫び、頭を左右に激しく振ります。頭囲測定は、眉間を通る額の最も高い位置から、後頭部の最も突き出た結節部(後頭結節)をメジャーで巻いて計測しますが、赤ちゃんの体動やメジャーを当てるミリ単位の角度のズレ、さらには赤ちゃんの毛量や頭皮のむくみ具合によって、平気で0.5cm〜1.0cmの測定誤差が生じます。
助産師や医師が計測してもこれほどの誤差が発生する作業を、家庭用の巻き尺を使って素人が正確に再現することは不可能です。「昨日自宅で測ったら34cmだったのに、今日測ったら33.5cmに縮んでいた」と取り乱す親がいますが、それは頭が縮んだのではなく、単なる計測誤差の産物です。点としての単発測定に一喜一憂すること自体が、医学的に何の意味も持たない行為なのです。