近年のテレビドラマにおいて、作品の成否を分けるキャスティングの最重要ポジションが「主人公の母親役」です。特にNHK連続テレビ小説(朝ドラ)における母親役のキャスティングには、明確な構造力学が存在します。
朝ドラのヒロインには、フレッシュな若手女優やオーディションで抜擢された新人が起用されるケースが目立ちます。その未完成な演技を受け止め、半年に及ぶ長丁場のドラマに骨太な説得力を与える役割を担うのが、経験豊富な実力派女優たちです。過去の朝ドラを振り返っても、尾野真千子、安藤サクラ、宮崎あおい、松嶋菜々子など、かつて自身がヒロインを務めた女優が「母親役」として帰還する例が後を絶ちません。
民放ドラマにおいても、40代から50代の女優陣が果たす役割は極めて重厚です。木村多江が醸し出すどこか儚げでありながら芯の強い佇まい、吉田羊が見せる知的で自立した現代的な母親像、そして江口のりこが放つ日常の愚痴をさらりと笑いに変える絶妙な生活感は、ドラマのトーンを決定づけます。民放キー局のドラマプロデューサーは次のように解説します。
「40代・50代の実力派女優は、1シーンの表情の揺らぎだけで、その家庭が背負ってきた10年、20年の歴史を物語ることができます。セリフ以上の背景を背負える彼女たちの存在こそが、視聴者を画面に引き戻すアンカーとなっているのです」