『海がきこえる』を語る上で、スタジオジブリにおける制作背景も極めて重要な要素です。本作は「若手スタッフを中心に、安く・早く・クオリティの高い作品を作る」というコンセプトのもと、スタジオジブリ初の長編TVアニメスペシャルとして1993年に制作されました。
キャラクターデザインと作画監督を務めたのは、『魔女の宅急便』や『コクリコ坂から』でも知られるトップアニメーターの近藤勝也です。小説連載時の美麗なイラストレーションがそのままアニメーションとして動き出したかのような画面設計は、今見ても全く古さを感じさせません。
宮崎駿や高畑勲という二大巨匠の手を離れ、望月智充監督と若手スタッフが総力を挙げて創り上げた本作は、日常芝居の細やかな描写、高知の街並みや光の表現においてアニメ史に残る傑作となりました。原作小説を読みながら近藤勝也の挿絵を眺めると、アニメ版がいかに原作の空気感をリスペクトしつつ、独自の映像言語へと昇華させたかが鮮明に理解できます。