人が感情を抱いてそれを外へ表出する過程には、大脳の複雑なネットワークが介在しています。扁桃体や大脳辺縁系で湧き上がった原始的な情動は、大脳皮質、とりわけ「前頭葉」からの抑制シグナルによって適切に制御されています。前頭葉は人間らしさを司るブレーキ役として機能し、TPOに合わない激しい感情の爆発を抑え込んでいるのです。
感情失禁の原因は、この前頭葉から脳幹・小脳へと至る神経伝達路(皮質延髄路や前頭・橋・小脳路)が虚血や変性によって物理的に断裂することに起因します。ブレーキワイヤーが切れた車のように、情動の中枢である脳幹部(延髄など)の反射運動が野放しになり、些細な刺激に対して過剰な泣きや笑いの運動パターンが自動出力されてしまうわけです。これが、脳神経科学において前頭葉損傷と情動調節障害が直結すると説明される本質的なメカニズムです。
さらに臨床上、見逃せないのが「仮性球麻痺の症状」との合併です。脳幹の運動神経核そのものではなく、そこへ指令を送る上位運動ニューロンが両側性に障害されると、仮性球麻痺と呼ばれる状態に陥ります。この状態では、感情失禁の発作とともに、以下のような運動機能障害が並行して現れるケースが極めて多く見られます。
・構音障害(舌や唇がもつれ、呂律が回らなくなる)
・嚥下障害(食べ物や水分で激しくむせる、飲み込みにくくなる)
・病的反射の出現(下顎反射の亢進など)
突然泣き出すという現象の裏側には、脳内のセロトニン系、ドーパミン系、グルタミン酸作動性神経のバランス破綻が確実に存在しており、神経伝達の物理的なエラーが生じている事実を裏付けています。