ファンの間で今もシンジ君の迷言・問題発言として議論が絶えないのが、1997年の劇場版『Air/まごころを、君に』冒頭で放たれた「最低だ、俺って……」という独白です。病室で昏睡状態にある惣流・アスカ・ラングレーに対し、自制心を失って自涜行為に及び、汚れた自身の右手に視線を落としながら呟いたこのシーンは、当時の観客に強烈なトラウマと衝撃を与えました。
エヴァンゲリオンの緻密な心理描写解説の視点からこのシーンを読み解くと、シンジの自己嫌悪が極限に達していた背景が浮き彫りになります。カヲルを自らの手で屠り、ミサトや周囲との精神的接続を失ったシンジは、「他者からの無条件の受容」を病室のアスカに一方的に求めました。しかし返答のないアスカを前にして衝動に屈し、直後に自己の矮小さと卑劣さを突きつけられます。
この「最低だ」という吐露は、従来のヒロイックなアニメ主人公像を粉々に破壊し、人間の根源的な弱さとエゴイズムをむき出しにした庵野秀明監督ならではのリアリズムの極致でした。