近代日本文学において、「嬲る」は登場人物の葛藤や陰鬱な感情の機微を極限まで引き出すための強力な筆致として重宝されてきた。とりわけ太宰治の金字塔『人間失格』では、主人公の心理的孤立や、他者からの陰湿な干渉を象徴する場面でこの言葉が効果的に打ち込まれている。
文豪たちは単に「いじめ」「からかい」といった平易な単語で済ませず、あえて「嬲る」を刻みつけることで、逃げ場のない不条理さや湿り気のある情念を読者の脳裏に焼き付けた。出版業界でも、こうした古典文学の再評価とともに、脚注や解説を通じて難読漢字の持つ圧倒的な表現力に光を当てる試みが続いている。