この2つの書物が生まれた背景には、天武天皇という一人のカリスマの強い意志がある。壬申の乱という未曾有の内乱を勝ち抜いた彼は、自らの皇位の正当性を証明し、権力を集中させる必要があった。そこで各地に散らばっていたバラバラの伝承を一つにまとめるよう命じたのだ。
しかし、編纂のプロセスで「誰の都合が良いように歴史を書き換えるか」という政治的バイアスが働いたことは否めない。『古事記』は天武天皇の意図が色濃く反映されたプライベート版であり、『日本書紀』はその後、持統天皇ら歴代の権力者たちが国家の公式歴史としてアップデートを重ねた完成版という側面を持つ。