ネット上の考察コミュニティや映画ファンの間で長年議論されてきたのが、「登場する組織に実在のモデルが存在するのか」という点と、「片岡刑事はなぜ大友を執拗に追い詰めたのか」という謎です。
実在モデルヤクザ組織の真相
公開当時から「山王会は稲川会や住吉会などの関東名門組織、花菱会は山口組がモデルではないか」と囁かれてきました。しかし、関係者の証言や映画公開当時のインタビュー記録によると、北野武監督は特定の団体をそのまま模倣することを意図的に避けています。
山王会の「巨大ピラミッド組織が経済ヤクザ化していく過程」や、花菱会の「巨大な資金力と迫力ある関西弁での恫喝劇」は、昭和から平成にかけて実際に起きた暴力団の再編劇や抗争事件のエッセンスを高度に抽出・再構築したフィクションです。また、最終章に登場する張グループは、戦後日本で政財界のフィクサーとして実在した東声会の町井久之氏を彷彿とさせますが、こちらも特定の個人を指すのではなく、「国家権力すら手を出せない治外法権的な実力者」を具現化した映画的装置といえます。
片岡刑事が大友と組織を裏切り続けた決定的な理由
小日向文世が演じた片岡刑事は、ヤクザ以上に邪悪な存在として強烈な印象を残しました。片岡の行動原理は一貫して「自らの警察組織内での出世」と「暴力団の戦力均衡(弱体化)」です。
警察内部における暴力団対策(マル暴)の評価基準は、抗争事件の検挙率や組織の分裂・弱体化の実績にあります。片岡は大友を刑務所に匿ったのも恩義からではなく、将来山王会を揺さぶるための「カード」として生かしておいただけに過ぎません。関東の山王会が巨大化しすぎれば関西の花菱会をぶつけ、大友が暴れすぎれば木村を殺害させて大友を追い詰める。ヤクザを人間として見ず、チェスの駒のように扱った片岡の冷酷な官僚主義こそが、大友の怒りを頂点に達させ、自身の処刑という結末を招きました。