芦戸三奈の物語における最大のドラマツルギーは、同級生である切島鋭児郎との関係性に集約されています。ファンから「切芦」と称されるこの関係は、甘い恋愛感情の枠組みを根底から超えた、「魂の原体験を共有する戦友」と呼ぶべきものです。
二人の原点は、雄英進学前の中学時代に遡ります。新保乃実中学校時代、すでに明るく正義感の強い中心人物だった三奈と、自身の地味な個性と消極性に激しい劣等感を抱いていた切島。二人の運命を分けたのが、街中に出現した巨大ヴィラン・ギガントマキアとの遭遇事件でした。
突如姿を現した異形のマキアに脅された女子生徒たちを救うため、三奈は恐怖で足を踏み鳴らし、全身を震わせながらも毅然と嘘の道順を教え、仲間を守り切ります。その勇姿を物陰から見ていた切島は、恐怖で硬直して一歩も踏み出せなかった「自分の弱さ」に絶望を味わうことになります。
この時の三奈が見せた行動こそが、切島が己を奮い立たせ、トレードマークの赤髪に染め直して雄英へ挑む決定的な覚醒のトリガーとなりました。しかし重要なのは、「三奈自身もまた、あの瞬間に計り知れない底無しの恐怖を刻み込まれていた」という事実です。他者を守るために虚勢を張った代償として、彼女の潜在意識には怪異の残像が巨大なトラウマとして根を下ろすことになりました。