鍋の蓋を開けた瞬間、角が取れてボロボロになった大根や、膨張しきってスカスカになったちくわを見てため息をついた経験はないだろうか。煮込みすぎはおでんの天敵だ。
グラグラと沸騰する100℃の環境に食材を長時間放置すると、細胞壁が破壊され、大根のペクチンが過剰に分解される。結果として煮崩れが発生する。さらに深刻なのが、練り物から溢れ出る旨味の流出だ。本来は練り物自体が持っている魚肉の甘みや脂がすべて出汁に溶け出し、具材そのものは味の抜けたスポンジのような食感に成り下がってしまう。
日本料理における煮物の基本原則は「味を含ませる」ことであり、「加熱し続ける」ことではない。過剰な熱エネルギーは風味の揮発を招き、繊細な鰹や昆布の香りを台無しにしてしまう。