ネット上の情報掲示板や着こなし相談などで頻繁に散見される誤解のひとつが、「ネクタイピンはネクタイの中央に真っ直ぐ留めなければならない」という固定観念です。もちろんビジネスのフォーマルな場では水平が基本ですが、少し角度をつける「スラント留め(傾斜留め)」は、ナポリやフィレンツェのサルトリア(仕立て屋)が好む伝統的な着崩し(スプレッツァトゥーラ)の妙技として認知されています。
ただし、この斜め留めが洗練された抜け感に見えるのは、ネクタイの素材感やスーツのシルエットが完璧に調和している場合に限られます。単に留め方が曲がってしまっている状態との境界紙一重であるため、初対面の相手や厳格な取引先との会談では、寸分の狂いもない「完全水平」を意識するのが安全策です。
また、「高価なネクタイピンほど生地を傷めない」というのも偏った認識です。クリップ裏面の面取り処理や磨き加工の精度こそが生地への攻撃性を左右するため、価格ではなく「ノギスやルーペで確認した際の金属エッジの滑らかさ」に着目して商品を選定する必要があります。