そもそも、なぜ日本には「A」と「B」という2つの用紙系列が併存しているのでしょうか。その背景には、明治から昭和、平成にかけて繰り広げられた、国際化の波と日本の伝統文化のせめぎ合いがあります。
A判はドイツ生まれの「世界標準(ISO規格)」
A判は、19世紀末のドイツの物理学者ヴィルヘルム・オストヴァルトによって提案され、ドイツ工業規格(DIN 476)として採用された合理的な幾何学フォーマットです。縦と横の比率が「1:√2(約1.414)」となる白銀比で構成されており、「どこまで半分に折っても縦横の比率がまったく変わらない」という極めて美しい数学的特性を持っています。これが後に国際標準化機構によって「ISO 216」として正式承認され、世界140カ国以上で標準規格として採用されることとなりました。
B判は日本の江戸時代「美濃判」を受け継ぐローカル規格
対するB判は、完全な日本発祥の寸法です。ルーツは江戸時代に徳川将軍家の公用紙として普及した美濃国(現在の岐阜県)の手漉き和紙「美濃判(みのばん)」にあります。明治以降、日本が近代化を進めるなかで公文書の標準として美濃判が定着していたため、1929年に日本標準規格(現在のJIS)を制定する際、伝統的な美濃判の寸法比率を活かしつつ、A判と同じく「1:√2」の白銀比になるよう再設計されたのが「JIS B判」です。
歴史的大転換:1990年代の「官公庁A判統一運動」
昭和の時代、日本の役所や学校のプリントは「B4」「B5」が圧倒的多数派でした。しかし、海外企業との貿易取引や国際規格(ISO)との互換性欠如が問題視されるようになり、1993年(平成5年)、当時の総務庁(現・総務省)が「行政文書の100% A判化」を各省庁に通達しました。この号令を契機に、官公庁の申請書類や民間企業のビジネス文書は急速にA4へと一本化されていった歴史的経緯があります。
⚠️ 海外出張・グローバルビジネスでの落とし穴日本のJIS規格における「B5(182×257mm)」と、国際規格ISO 216の「B5(176×250mm)」は、ミリ寸法が微妙に異なります。海外製の文具や海外オフィスのプリンターで「B5」を指定すると、日本のB5用紙が給紙トレイに入らなかったり、印刷がズレたりすることがあるため注意が必要です。