結論から申し上げますと、「フッ酸」と「フッ化水素酸」は全く同じ物質を指しています。学術用語や法令(毒物及び劇物取締法など)で用いられる正式名称が「フッ化水素酸(Hydrofluoric acid)」であり、製造現場や研究開発の現場で慣用的に呼ばれている略称・通称が「フッ酸」です。塩化水素の水溶液を「塩酸」と呼ぶのと同様の命名規則にあたります。
ただし、ここで絶対に混同してはならないのが、純粋な化合物である気体の「フッ化水素」との違いです。フッ素と水素が結合した化合物としてのフッ化水素酸の化学式は「HF」と表記されますが、その物質状態(気体・液体・水溶液)によって取り扱いと物理的挙動が大きく異なります。
フッ化水素(HF)は沸点が19.5℃と極めて室温に近く、常温環境下では容易に気化して無色刺激臭の気体(ガス)となります。このガスを水に溶かしたフッ化水素水溶液が「フッ酸(フッ化水素酸)」です。気体としてのフッ化水素を吸入した場合、呼吸器粘膜を瞬時に侵食して急性肺水腫を引き起こすため、水溶液の飛散リスクとは異なる厳重な密閉換気設備が求められます。