長年、憎悪の対象でしかあり得なかった父親だが、歳月が流れるにつれて坂上忍の中に静かな変化が生まれ始める。父親が遺した執筆原稿や文章の断片に触れる中で、破滅的な生き方しかできなかった一人の男の不器用さと、表現者としての狂気を感じ取ったからだ。
毒親として家族を追い詰めた父親ではあったが、その文学的感性や言葉に対する異常なまでのこだわりは、巡り巡って坂上忍自身の中にも確かに受け継がれていた。憎み抜いた父親の遺伝子を自らの中に発見した時、単なる「加害者」としての父親像は崩れ、愚かしくも切ない一人の人間としての姿が立ち現れた。家族の絆とは、綺麗な思い出だけではなく、歪みや傷痕をも含んだ覚悟の形なのだ。