かつて市川猿之助は、革新的な演出と圧倒的なパフォーマンスで伝統芸能の可能性を広げた奇才と称えられていた。特にスーパー歌舞伎II『ワンピース』は大ヒットを記録し、これまで歌舞伎に触れたことのなかった若い層やファミリー層を劇場へと惹きつけた。古典の枠組みを打ち破るダイナミックな空中乗りや派手な演出は、現代のエンターテインメントとしての歌舞伎を象徴するものだった。
しかし、その革新的な舞台を支えていた現場の内実には、過酷な圧迫と緊張が常態化していたとされる。成功の陰で膨らんでいた歪みが決壊したとき、彼が打ち立てた金字塔は一転して批判の標的となった。創造的なエネルギーと引き換えに払われた代償はあまりにも大きく、興行界に深い爪痕を残した。