迷宮のモデルがクノッソス宮殿であるならば、「牛頭の怪物ミノタウロス」は何を象徴していたのでしょうか。近年の研究では、主に2つの有力な説が提示されています。
第1の説は、ミノア文明特有の宗教的儀礼である「牛跳び(ブル・リーピング)」です。宮殿の壁画には、突進してくる巨大な猛牛の角を掴み、その背中をアクロバティックに飛び越える若者たちの姿が鮮やかに描かれています。本土から連れてこられた捕虜や若者たちがこの危険な神事の生贄となり、命を落とす光景が、後世に「牛の怪物に喰い殺される生贄」の伝説へと変貌したと考えられています。
第2の説は、地中海特有の「大地震の脅威」です。クレタ島はプレート境界に位置する地震多発地帯であり、クノッソス宮殿も度重なる大地震によって破壊と再建を繰り返しました。古代人にとって、前触れなく地鳴りを響かせ大地を揺るがす地下のエネルギーは、まさに「地底で荒れ狂う猛牛の咆哮」そのものでした。地下に怪物が棲まうという伝承は、自然災害の恐怖を神格化したものだったと言えます。