「漁夫の利」という言葉のルーツは、中国の戦国時代(紀元前3世紀頃)の遊説家たちの言行をまとめた歴史書『戦国策(燕策)』に登場する寓話「鷸蚌の争い(いつぼうのあらそい)」にあります。
戦国時代の外交官・蘇代が放った巧みな比喩
当時、小国であった趙(ちょう)が隣国の燕(えん)を武力侵略しようと軍備を進めていました。窮地に立たされた燕の王は、優れた弁舌を持つ遊説家・蘇代(そだい)を趙の恵文王のもとへ派遣します。 蘇代は趙王に対し、直接「戦争をやめてほしい」と懇願するのではなく、道中で目撃した光景として次のような話を語り聞かせました。
「私がこちらへ参る途中、川のほとりでシギ(鷸:水辺の鳥)が口を開けたドブガイ(蚌:カラスガイなどの大型二枚貝)の肉をついばもうとしました。すると貝は即座に殻を閉じ、シギのくちばしを固く挟み込みました。
シギが『今日も明日も雨が降らなければ、お前は干からびて死ぬぞ』と脅せば、貝も『今日も明日もくちばしを離さなければ、お前こそ餓死するぞ』と言い返し、互いに一歩も譲りません。
そこへ通りかかった一人の漁師(漁夫)が、争いに夢中で身動きの取れないシギと貝を、苦もなく両方とも捕らえて持ち去ってしまいました」
この寓話を聞かせた上で、蘇代はこう続けました。 「今、趙が燕を攻めれば、両国は長期戦で疲弊し合います。その隙に強国である『秦(しん)』が漁夫となって、両国を一網打尽にしてしまうでしょう」 趙王はこの極めて論理的かつ情景豊かな警告に深く納得し、燕への侵攻計画を即座に取りやめたと伝えられています。つまり「漁夫の利」とは、元来は「無益な争いを続ける者への痛烈な抑止と戒め」として生まれた言葉なのです。