日本映像史において「顔の濃さ」が最大の賞賛として昇華された歴史的転換点といえば、誰もが『テルマエ・ロマエ』を思い浮かべるだろう。古代ローマの設計技師が現代日本の浴場へとタイムスリップする異色のコメディにおいて、主役を張った阿部寛の存在感はまさに規格外だった。欧米系キャストが居並ぶ画面の中に混じっても一切引けを取らない彫りの深い顔立ちと、全編を通して見せた真面目ゆえのおかしみ。あの映画は、単なる企画モノの域を超えて日本映画界に鮮烈なインパクトを残した。
あの圧倒的なビジュアルは決して奇策などではなく、彼が長年培ってきた役者としての重厚な足腰があってこそ成立したものだ。異色の役に全身全霊で挑み、観客を力技で納得させてしまう説得力。これこそが、顔立ちの濃さを天性の武器へと昇華させたパイオニアの真骨頂である。