なぜ釧路において、これほどまでに「はしご酒」が人々の生活に深く根付いているのか。その理由は、この街が歩んできた産業の歴史と気候風土にある。
昭和のアジア沖合漁業全盛期、釧路港は水揚げ量日本一を誇る北洋漁業の巨大拠点だった。数ヶ月におよぶ過酷な海上勤務を終えた漁師たちが一斉に街へ繰り出す。懐を温めた男たちは、安らぎと刺激を求めて夜の街へと流れ込んだ。ひとつの店に長居するのではなく、馴染みの店や新しい店を次々とハシゴするのが、当時の気風であり粋とされたのだ。
また、釧路特有の「夏でも涼しく、秋から冬にかけて冷たい霧が立ち込める」という気候も関係している。冷えた身体を温めるため、熱々の炉端焼きをつまみ、温かい地酒を煽る。そして次の店へと暖簾を潜る。移動の道中すらも、酒の酔いを心地よく冷ます貴重なグラデーションとなった。