2004年に公開された映画『誰も知らない』は、日本映画界に計り知れない衝撃を与えた。メガホンをとった是枝裕和監督は、極限状態に置かれた子どもたちの日常をドキュメンタリータッチの詩的な映像美で掬い取った。当時若干14歳だった柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で歴代最年少の最優秀男優賞を獲得した快挙は、今も色あせない記憶として刻まれている。
しかし、映画というフォーマットに落とし込まれる過程で、実際の事件に存在した最も過酷な毒素は慎重に濾過されていた。劇中では兄弟の絆や季節の移ろいが瑞々しく描かれる一方、現実の事件現場は荒廃を極めていた。ゴミが天井近くまで積み上がり、電気もガスも止められた異臭漂う部屋。銀幕の社会派ドラマが放った光の影には、フィクションでは到底描ききれない凄惨な真実が横たわっていた。