行政の通知、自治体の答申書、あるいは新聞各社のニュース記事を丹念に観察すると、商業的な賑わいを描写する場面であっても「街」の表記が意図的に避けられている事実に気付きます。ここには、文部科学省の文化審議会国語分科会が管理する常用漢字表の訓令と、それに基づく公用文の表記ルールが厳格に関係しています。
現行の常用漢字表において、「街」という漢字に認められている標準的な読みは音読みの「ガイ」および「カイ」のみです。「街」を「まち」と訓読みする用法は、いわゆる「表外音訓(常用漢字表の外にある読み方)」として扱われています。このルールが存在するため、以下の公的メディアでは原則として「街(まち)」という表記が排除されます。
- 官公庁の公用文・法令条文:国民への伝達における曖昧さを排除するため、表外音訓は原則使用不可。表記する場合は「町」とするか、平仮名で「まち」と表記する。
- 共同通信社・時事通信社の記者ハンドブック:「まち」と読む場合は「町」を基本とする。「街」は「商店街」「市街地」「街頭」など音読みの熟語に限定する。
- 教科書・教育機関の指導要領:義務教育段階の配当漢字・読み分け基準に準拠するため、小学校の学習指導要領において「街」の訓読みは指導されない。
近年では、自治体の観光PRやブランディングにおいて、あえて親しみやすさを演出するために平仮名の「まちづくり」という表記が多用されています。これは、「町づくり」と書くと行政主導の区画整理やハード整備のニュアンスが強まりすぎ、「街づくり」と書くと常用漢字の公用文ルールに抵触するという二重の制約を回避するための、高度に計算された実務的妥協策でもあります。