総会屋事件からわずか数年後の2000年12月、今度は海外進出の最前線で企業存亡の危機が訪れます。それが、イスラム教徒が人口の大半を占めるインドネシアで起きた「ハラール認証取り消し事件(豚エキス騒動)」です。
問題の発端は、味の素の主原料であるグルタミン酸を精製する際、発酵菌を培養する培地の製造工程にありました。同社は生産効率を高めるため、大豆油かすを分解する触媒として豚の膵臓から抽出した酵素(ポルシン・パンクレアチン)を使用していたのです。
完成した製品そのものには豚の成分は一切残存していなかったものの、イスラム法(シャリーア)において豚は禁忌(ハラーム)とされています。現地のイスラム指導者会議(MUI)はこれを問題視し、味の素に対するハラール認証の取り消しと製品の市場回収を勧告しました。
事態は急速に悪化し、現地では不買運動が勃発。警察当局が介入し、日本人社長を含む現地法人の幹部4人が拘束・逮捕されるという前代未聞の国際問題に発展しました。
この危機に対し、日本政府の外務省や当時のインドネシア大統領アブドゥルラフマン・ワヒド氏が調停に動きました。味の素側は直ちに豚由来の酵素使用を中止し、牛由来の酵素へと製造プロセスを変更。迅速な謝罪と全面的な回収作業を実施した結果、2001年2月に新たなハラール認証が再交付され、沈静化に至りました。
異文化への理解不足が引き起こしたこの教訓は、現在に至るグローバルサプライチェーン管理における代表的なケーススタディとして広く知られています。