作中で強い印象を残す朝鮮人青年の朴(ボク)さん。彼の背景には、当時の苛烈な社会状況と実在のモデルが存在する。作者である中沢啓治自身の被爆体験と、幼少期に身近にいた実在の人物たちの姿がリアルに投影されているのだ。
戦時下の日本において、在日朝鮮人として生きていくことは想像を絶する困難を極めた。国家からの抑圧だけでなく、周囲の住民からの偏見や嫌がらせに日常的に直面していたのである。朴さんは、不当な扱いに傷つきながらも、決して自暴自棄にならず、正義感を持ち続けた。彼が抱えていた内面の葛藤と、それでも人間を信じようとした真実の姿は、単なるフィクションの枠を超えた圧倒的なリアリティを伴って読者の胸に迫る。