彼女の歩みを語る上で避けて通れないのが、生まれた土地と血縁の歴史だ。レバノンの首都ベイルートで秘密裏に誕生した彼女は、元日本赤軍の最高幹部である重信房子を母に持ち、幼少期から潜伏生活を余儀なくされた。自らの本名すら名乗れず、身分証すらない「存在しない子供」としての歳月。周囲にはパレスチナ解放人民戦線(PFLP)の関係者や、政治的亡命者たちが日常的に行き交う特殊な環境が存在していた。
身の危険と隣り合わせの生活は、少女に冷徹な人間観察と揺るぎない政治感覚を植え付けた。28歳で日本国籍を取得するまで続いた無国籍の日々は、彼女に特定の国家や言説に属さない客観性をもたらすこととなる。この壮絶な生い立ちこそが、のちに揺るぎないノンフィクションの世界へ足を踏み出す強靭な原動力となったのだ。