タイトルにもなっている「BAD」という単語。学校の英語教材に従えば「悪い」「劣悪な」という意味にしかならない。しかし、80年代のアフリカ系アメリカ人たちのストリートカルチャーにおいて、この言葉は正反対の熱量を持っていた。彼らが使っていたストリート・スラングでの「BAD」は、「最高に格好いい」「タフで筋が通っている」「一流だ」という強い賛辞だったのだ。
マイケル・ジャクソン本人も過去のインタビューで「BADとは、クールで、タフで、正義感に満ちていること。決して悪事を働くことじゃない」と語っている。サビで繰り返される「Who's bad?」という問いかけは、「誰が一番ワルなんだ?」と挑発しているのではない。「自分の信念を貫き通す度胸があるのは誰だ?」と、周囲の圧力に流されそうな若者たちに覚覚悟を問うているのだ。
日本の従来の訳文では、このスラングの反転構造が見落とされがちだった。彼が叩きつけたのは暴力への憧れではなく、暴力に屈しない真のタフネスだったことが、言葉の裏側を紐解くことで鮮明に見えてくる。