二人の関係を語る上で避けて通れない金字塔が、1999年に上演された『パンドラの鐘』だ。蜷川幸雄と野田秀樹が同一テキストを同時期に別演出で競作するという、前代未聞の演劇的実験。その野田演出バージョンで圧倒的な存在感を放ったのが大竹しのぶだった。
古代と現代、神話と歴史が幾重にも交錯する過酷なテキストの中で、彼女は哀切と狂気をごく自然に行き来してみせた。疾走感あふれる野田のセリフ劇に、大竹の持つ生々しい情念が注入された瞬間、現代演劇の新たなスタンダードが誕生したと言っても過言ではない。言葉のスピードと感情の深淵が完璧な均衡を保ち、観客の心に消えない爪痕を残した。