結婚当初の生活は、決して順風満帆とは言えなかった。劇団の公演だけでは家計を維持できず、寺脇はアルバイトを掛け持ちしながらオーディションを受け続ける日々を送っていた。風呂なしアパートや慎ましい食卓、明日の仕事すら見通せない不安が常に付きまとう。
そんな極貧時代、家計を陰で支え、焦る寺脇の心を穏やかに解きほぐしたのが妻の献身だった。彼女は決して「もっと稼いで」「いつ売れるの」といったプレッシャーをかけることなく、夫の才能と情熱を信じ、笑顔で温かい食事を用意し続けたという。
二人の間には、長年守られてきた暗黙のルールがある。それは「仕事の愚痴や鬱屈を家に持ち込まないこと」、そして「どんなに忙しくても感謝の言葉を口にすること」だ。妻の精神的なタフさと明るさが防波堤となり、寺脇は外の世界でどれほど打ちのめされても、玄関のドアを開ければ本来の自分を取り戻すことができた。