劇団四季を語る上で避けて通れないのが、独自の台詞術「母音法」だ。「おはようございます」であれば「オ・ア・ヨ・ウ・ゴ・ザ・イ・マ・ス」の母音(O-A-O-U-O-A-I-A-U)だけをまず発声し、言葉の芯を捉えてから子音を乗せる。劇団の全俳優が毎日繰り返す基礎訓練だ。
しかし、近年の本館では、この伝統的な母音法に最新テクノロジーが静かに融合している。スタジオの壁際には高精度な指向性マイクとリアルタイム周波数アナライザーが設置され、発声された言葉の倍音成分や明瞭度がモニターに可視化される。感覚だけに頼るのではなく、データとしても「客席の最後列まで届く響き」を検証しているのだ。
「伝統を守るということは、過去のやり方を盲信することではありません」と、音響スタッフの一人は語る。「どの母音がどの周波数帯で減衰しているかを客観的に知ることで、役者は自分の喉の使い方の癖をより早く修正できる。伝統的な身体訓練を、現代の科学が後押ししている感覚です」