現在のニューヨークにおいて、ベーカリーの価格設定は過去最高水準に達している。シンプルなバタークロワッサンが8ドル、季節の果実やヴィーガンクリームを挟んだ限定デニッシュに至っては15ドルを超えることも珍しくない。しかし、客足が衰える気配はまったくない。
この強気な価格を支えているのは、一切の妥協を排した素材選びと途法もない手間だ。ノルマンディー産のAOP発酵バター、ニューヨーク州北部の契約農家から毎朝届く無農薬の全粒粉、そして熟練の職人が手作業で折り重ねる数百層の生地。単なる食料品ではなく、職人が手間暇をかけた「日常の贅沢品」としてのポジションを確立したからこそ、人々はこの金額を喜んで支払うのだ。