往年の映画や復元図では、ブラキオサウルスがキリンのように首を直立させ、青空に届かんばかりの高さで木の梢を食む姿が定番でした。しかし、近年のバイオメカニクス(生物力学)研究において、この描写には深刻な生理学的矛盾が存在することが指摘されています。これが学会を揺るがした首を垂直に上げられない説です。
物理的な最大障壁は「血圧」です。オーストラリアのアデレード大学などの研究チームによるシミュレーションでは、心臓から頭部まで8〜10メートルの高低差がある場合、脳へ十分な血液を送り届けるためには700mmHg以上という異常な血圧が必要になります。現生キリンの血圧(約250〜300mmHg)の倍以上であり、これほどの高圧を維持するには、心臓の壁の厚みが数十センチにおよび、心臓自体の重量だけで数トンに達してしまいます。一歩間違えれば毛細血管が破裂しかねない構造的リスクを抱えることになります。
さらに、コンピューター断層撮影(CT)を用いた頚椎骨の3次元モデリング解析(スティーブンス博士らの研究など)によると、頸椎同士の関節面(椎間関節)の噛み合わせは、首を水平からわずかに持ち上げる程度が最も自然であり、直角近くまで反らせると骨同士が干渉して脱臼してしまうことが判明しました。
ただし、首が長い恐竜最新学説は「絶対に垂直に上げられなかった」という単純な二元論にとどまりません。軟骨組織の厚みや筋肉・靭帯の張力による補助を考慮すれば、頸椎の可動域は骨単体よりも広かったとする反論も存在します。現在では、ディプロドクス類は基本的に水平から低い位置を薙ぎ払うように採食し、ブラキオサウルス類は傾斜した胴体によって「骨に無理な力をかけることなく斜め上方の高所に頭部を届かせていた」という、骨格の傾きによる適応差分として解釈するのが学界の標準的な見解です。