刺身の下に敷かれた大根や脇の薬味を「ただの飾り」と決めつけて残してしまうのは、あまりにももったいない。昔の人は経験則として、生魚を食べる際にツマを一緒に口に含めば腹を壊しにくいことを知っていた。そして現代の食品科学は、その知恵が極めて合理的であったことを裏付けている。
生の大根を細かく刻んだりすりおろしたりするプロセスで、細胞が破壊されて生成される辛み成分が「イソチオシアネート」だ。この成分には強力な抗菌・殺菌作用があり、生の刺身に付着した雑菌の繁殖を抑え、食中毒のリスクを大幅に低減させる効果がある。冷蔵技術が発達していなかった時代、生魚を安全に食べるための防腐剤として、大根のツマは命を守るフィルターの役割を果たしていたのだ。
さらに、大根に含まれる消化酵素のジアスターゼ(アミラーゼ)は、魚のたんぱく質や脂質の消化を助け、胃もたれを防ぐ働きを担う。単なる見た目の彩りにとどまらず、食べる人の健康まで計算し尽くされた生薬のごとき存在——それこそが、刺身に添えられたツマの本質である。