全国の定期夜行列車が姿を消すなか、唯一生き残った「サンライズ瀬戸・出雲」の指定席券は、日本で最も確保が困難なプレミアムチケットのひとつです。特に1人用のフラッグシップ個室である「シングルデラックス(A寝台)」や、手頃なプライベート空間を提供する「B寝台シングル」は、1ヶ月前の午前10時に発売された直後、ものの数十秒で払底します。取材に応じた大手旅行代理店のカウンター担当者は、「平日であっても発売開始と同時にシステムを叩かなければ、希望の階層や個室タイプを押さえるのは極めて困難」と現場の凄まじさを明かします。
この激戦を生み出している構造的要因は、圧倒的な「供給不足と需要の集中」にあります。1編成(7両)あたりの個室数は限られており、岡山〜東京間という主要都市間のビジネス需要と、夜行列車そのものを目的とする観光需要が同一のパイを奪い合っています。さらにプライバシー意識の高まりから、相部屋を避け「完全個室で移動したい」という現代の旅行者心理が、個室人気に拍車をかけています。
車内に乗り込んだ後にも、もうひとつの関門が待ち構えています。それがファンの間で語り草となっている「シャワーカード争奪戦の真相」です。サンライズ号の3号車および10号車に設置されたカード自動販売機には、乗車ドアが開いた瞬間に長蛇の列が形成されます。列車に積載できる水タンクの物理的容量に限りがあるため、発行枚数は各編成でおよそ20枚から30枚程度に厳しく制限されています。岡山駅から上り(東京行き)に乗車する場合、すでに高松・出雲市・倉敷といった前位駅からの乗客によって完売しているケースも珍しくありません。シャワーカードを入手できなかった乗客が悔しさを滲ませる姿は、夜のホームにおける日常茶飯事となっています。