南京町広場に面した老祥記の店頭では、熟練の職人たちが手際よく皮を伸ばし、餡を包み、次々と巨大な蒸籠(せいろ)へと並べていく姿が見られます。1日に売り上げる豚まんの数は平日でも数千個、週末や連休ともなれば1万3000個以上に達します。この圧倒的な回転率と人気を支えているのは、単なるネームバリューではなく、計算し尽くされた味の設計と生産システムにあります。
老祥記の豚まんは、一般的なコンビニエンスストアの中華まんとは根本的に設計思想が異なります。直径約5センチメートルという小ぶりなサイズ感でありながら、一口噛むと凝縮された豚肉の旨味と濃厚な醤油ベースの肉汁が口内いっぱいに弾け飛びます。創業者の曹松濤(そうしょうとう)氏が故郷・中国天津地方の「天津包子(テンチンパオツー)」をベースに、日本人の味覚に合うよう改良を重ねて生み出した門外不出のレシピが、100年以上の時を超えて今なお頑なに守られています。
最大の差別化要素は、イースト菌ではなく伝統的な麹(こうじ)発酵によって仕込まれる独特の皮です。独特の芳醇な酸味と弾力のある歯ごたえを持ち、力強い肉餡の脂をしっかりと受け止めます。皮自体が主張しつつ肉の脂と調和することで、何個でも食べ進められる中毒性が生み出されているのです。