屈指の酒豪として名を馳せた謙信が、一体どのような酒を注いでいたのかは歴史ファンの探求心を刺激し続けている。当時の越後国(現在の新潟県)は酒造技術が大きく飛躍した地域であり、澄んだ水と上質な米から造られる「諸白(もろはく)」と呼ばれる最高級の清酒が嗜まれていた。現代でいう純米大吟醸の原点にあたる、芳醇で濃密な味わいだったと推測される。
興味深いのは、その酒の肴だ。謙信は豪華な宴の料理よりも、一粒の「梅干し」や僅かな塩を指先につまみながら、ただ独り静かに盃を重ねる時間を好んだとされる。自己規律を極限まで高めた武将にとって、馬上杯に注がれた一献は、勝利への祈念であり、孤独な心を癒やすささやかな救いだったのかもしれない。