初心者がセリアの羊毛フェルトに挑み、最も高い確率で直面するのが「どれだけ針を刺しても毛がまとまらず、フワフワしたまま固まらない」という現象です。ネット上の掲示板や知恵袋でも「1時間刺したのに形にならない」という悲痛な叫びが見受けられます。この問題は、作り手の不器用さだけが原因ではありません。素材の特性と道具の仕様に起因する物理的な理由が存在します。
第1の要因は、原料繊維の違い(獣毛ウールとアクリル化繊の差異)です。本来の羊毛(ウール)は、人間の髪の毛と同様に表面に「スケール(キューティクル状の毛鱗)」と呼ばれる微細な突起を備えています。針で刺す摩擦と衝撃によってスケール同士が互いに噛み合い、組織が不可逆的に絡み合って縮絨(しゅくじゅう)し固まるのが羊毛フェルトの原理です。
しかし、100円均一ショップで販売されるフェルトの一部には、羊毛ではなくポリエステルやアクリルファイバーなどの化学繊維主体のフェルト綿が採用されています。アクリル繊維は表面が滑らかで摩擦係数が低いため、ウール100%の素材に比べて繊維同士が絡み合うまでに約2倍から3倍の刺突回数を要します。「刺しても刺しても手応えがない」と感じる最大の正体は、この絡まりにくい合成繊維の挙動にあります。
第2の要因は、付属あるいは別売りされている100均ニードルの「バーブ(刻み)」の精度です。羊毛フェルト用の針には先端付近に微細な凹凸(バーブ)が施されており、この凹みが繊維を引き込んで絡ませる役割を担います。専門メーカー(クロバーやハマナカなど)の針はバーブのピッチや角度が緻密に設計されているのに対し、100均の針は個体差が出やすく、深く奥まで垂直に刺し込まなければ毛を効率よく巻き込めません。
第3の要因は、作業の下敷きとなる「フェルティングマット」の弾力性不足です。セリアで手に入る発泡スチロール型マットは非常に軽量ですが、針を通したときの衝撃反発が弱く、作業を続けるうちに中心部が凹んで平坦性を失いがちです。マットのクッション性が落ちると針先が毛束の中心部まで届かず、表面ばかりを撫でるように刺す状態に陥るため、内部の芯が形成されずに全体が崩れてしまいます。