ネット上やSNSでは長年、「盗撮防止のために法律でシャッター音が義務化されている」という言説がまことしやかに語られてきました。しかし、日本の現行法においてスマートフォンのカメラシャッター音を義務付ける法律は一切存在しません。
この特異な仕様の原点は、2000年11月に旧J-PHONE(現ソフトバンク)から発売された世界初のカメラ付き携帯電話「J-SH04」(シャープ製)に遡ります。「写メール」ブームが巻き起こる中、公共の場や商業施設でスカート内などを盗撮する犯罪が社会問題化しました。警察当局や社会からの批判を受けた当時の通信キャリア各社(NTTドコモ、J-PHONE、KDDI)は、業界団体の協議を経て「撮影時には必ず一定音量以上の音を鳴らし、ユーザーが消音できない仕様にする」という業界独自のガイドライン(自主規制)を策定したのです。
この方針は、電子情報技術産業協会(JEITA)などの標準化議論とも連動し、国内に参入するすべての端末メーカーに事実上の標準仕様として受け入れられていきました。日本市場へ本格参入したAppleのiPhoneや各社のAndroid端末も、日本の通信キャリアが定める納入基準に適合させるため、日本向けのファームウェアにおいてのみ「マナーモード時でもカメラ音を強制的に鳴らす」特別仕様を組み込むことになったのが真相です。
世界的に見ても、韓国などごく一部の地域で同様の規制が導入された事例を除き、欧米やアジア諸国では「静粛な場所での撮影権」や「ユーザーの選択の自由」が尊重され、マナーモード連動で無音になるのが標準的です。日本独自のガラパゴス的な防犯対策が、スマートフォン時代になってもOSレベルの制御として残存し続けています。