猗窩座というキャラクターの真の恐ろしさと愛おしさは、彼が鬼となる前の人間「狛治(はくじ)」としての記憶が蘇る瞬間に凝縮されている。大切な者を守れず、すべてを奪われた青年の絶望と悲痛。その記憶が溢れ出すクライマックスシーンで、石田が見せる演技の振れ幅は圧巻だ。
鬼としての凶暴な咆哮から、一転して無垢で傷ついた青年の声へと変貌を遂げる。エフェクトや音響効果に頼ることなく、純粋な発声と感情の乗せ方だけで人間の多層的な精神構造を表現する。観客はスクリーン越しに、一人の男が辿った悲惨な運命の全貌を、声を通して直接体感することになるのだ。