「見覚えのある レインコート」から始まる印象的なオープニング。雨の降る薄暮のホームで、かつて愛し合っていた恋人のやつれた横顔を偶然見かけ、声をかけることもできずに涙を流すという物語は、あまりに生々しく聴き手の胸を締めつけます。そのため、ファンの間では長年にわたり「竹内まりや自身の元彼との実体験をそのまま歌にしたのではないか」という実話モデル説が囁かれてきました。
しかし、竹内まりや本人が過去のラジオ特番やインタビュー、ライナーノーツ等で明かした制作秘話の真相によれば、この物語は完全な実話ではなく、緻密に構成されたフィクションです。
着想の原点となったのは、彼女が慶應義塾大学文学部で学んでいた学生時代、東急東横線の渋谷駅を利用していた頃の記憶でした。雨の日に濡れた傘を畳みながら行き交う人々の群像や、夕暮れのプラットホームに立ち込める湿った空気感といった「断片的な原風景」が、作家としてのイマジネーションを刺激したと本人が証言しています。特定の実在する元彼との具体的な再会劇を描いた私小説ではなく、誰もが人生のどこかで経験し得る「すれ違いの痛み」を普遍的なドラマへと昇華させたクリエイティブワークでした。
一方で、登場する男性の描写にリアリティが宿っているのは、竹内まりや自身が人間観察に優れていた証左でもあります。相手を責めるのではなく「二年の歳月が変えてしまった やつれた彼の横顔」に胸を痛める女性心理の機微は、同世代の女性たちの共感を一身に集めることとなりました。