作・斎藤隆介の手による物語の核心は、主人公・豆太が見せる「勇気」の変質にある。真夜中に大トチの木へ火がともる美しい儀式「モチモチの木に火がともる」を見るには、たった一人で夜の木を見に行かなければならない。しかし、臆病な豆太にはどうしてもそれができない。
ところが、愛するじさまが激しい腹痛で倒れた夜、豆太の行動は一変する。己の恐怖を完全に忘れ去り、血を流しながら真っ暗な山道を全力で駆け下り、医者を呼びに行くのだ。ここに隠された本当の意味とは、「勇気とは恐怖を感じないことではなく、誰かを深く愛したときに底から湧き上がる衝動である」という真実だ。
さらに感動的なのは物語のラストシーンである。医者を連れて戻り、じさまが助かった翌朝、豆太はまたしても「じさま、便所へついて行ってくれい」と泣きつく。一般的なヒーロー成長譚であれば「少年は勇気を得て強くなりました」と結ぶだろう。しかし本作は、人は一瞬の英雄になれても、普段は弱くて臆病なままでいいのだと告げている。この「人間的な弱さへの全面的な肯定」こそ、大人になった今だからこそ胸に刺さる裏設定なのだ。