料理の構成も、これまでのガストロノミーの文法を鮮やかに裏切る。コースという概念は存在せず、提供されるのは「共鳴」と名付けられた数種類のアプローチだ。例えば、樹齢数百年の古木から抽出した蒸留水で淹れた野草茶のあとに、極限まで水分を抜いた鹿肉の藁焼きが供される。噛み締めるたびに広がる野性味を、極小の音量で鳴らされる低周波の音響が引き立てる。
味覚と聴覚の境界を曖昧にするこの演出は、先端の音響工学と発酵技術の融合によるものだという。だが、それを誇らしげに語る講釈は一切ない。体験者はただ、喉を通り過ぎたあとに胸の奥に残る「韻」──消え去りそうで消えない微細な感覚の波紋に身を委ねるしかない。