ネット上のQ&AサイトやSNSには、「耳が詰まって気持ち悪いから自分でなんとかしようとした」結果、取り返しのつかない事態に陥った生々しい告白が溢れています。専門外来を訪れる患者のカルテには、共通する典型的な失敗パターンが刻まれています。
大手IT企業に勤務する30代男性の手記には、こう記されています。「連日深夜までの残業が続いていたある朝、右耳に水が入ったような詰まりを感じました。前夜の風呂の水が抜けていないと思い込み、綿棒を奥まで突っ込んで激しくグリグリと回しました。数時間後には耳の奥にズキズキとした激痛が走り、完全に音が遮断されたのです。慌てて耳鼻科へ駆け込んだところ、押し込まれた耳垢が外耳道の皮膚を削り、急性外耳炎と耳垢栓塞を重発していました。さらに聴力検査をすると、低音部の聴力が40dBも落ちている低音障害型感音難聴も併発していたのです。医師からは『綿棒でいじらず、初日に来ていれば薬だけで即座に治っていた』と告げられました」。
耳鼻咽喉科の臨床医は取材に対し、「耳が詰まったと訴える患者の約2割は、市販の点耳薬や自己流の強い耳抜きによって鼓膜に炎症を起こしてから来院します。最も恐ろしいのは、内耳の難聴が始まっているにもかかわらず、『耳垢がたまっているだけ』と勘違いして耳かきに執着し、受診のゴールデンタイム(48時間)を自ら浪費してしまうケースです」と警鐘を鳴らします。自覚症状だけで外耳の物理的トラブルと内耳の神経障害を区別することは、専門医のスコープとオージオグラム(聴力検査装置)なしには不可能です。